あいホールディングス(証券コード:3076)が2025年8月19日に、2025年6月期(2024年7月〜2025年6月)の決算短信を発表しました。岩崎通信機株式会社と株式会社ナカヨをグループに迎えたことで、売上高は前期比33%増と大きく拡大しました。一方、特殊な会計処理の影響で経常利益(本業以外も含めた利益)は半減しており、数字の見た目が複雑な決算となっています。数字の裏側を一緒に読み解いていきましょう。
この会社、何をしてるの?
あいホールディングスは、さまざまな電子機器・システムを開発・製造・販売するグループ会社です。主な事業は次の4つです。
①セキュリティ機器:マンションやオフィスに設置する電子錠・入退室管理システムなど、建物の「鍵と安全」を守るシステムです。②カード機器:病院で診察券をその場で発行する機械や、銀行でキャッシュカードをすぐに作れる機械です。窓口で「すぐカードが作れた」経験がある方は、このような機器のお世話になっているかもしれません。③情報機器(プロッタ・スキャナ):グラフテック株式会社が手がける、設計図や地図などを大判印刷する機械です。建設・製造現場で活躍しています。④ビジネスホン・計測機器:2025年6月期から子会社となった岩崎通信機・ナカヨが製造する会社向けの電話システム(ビジネスホン)や電子計測器(電気信号を測る装置)です。
2025年6月期の業績まとめ
| 項目 | 2024年6月期 | 2025年6月期 | 前期比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 498億円 | 662億円 | +32.9% |
| 営業利益 | 99億円 | 89億円 | -9.8% |
| 経常利益 | 199億円 | 90億円 | -54.6% |
| 当期純利益 | 157億円 | 213億円 | +35.7% |
| 1株当たり純利益 | 331.11円 | 407.13円 | +22.9% |

注目ポイント①|経常利益が半減した本当の理由
経常利益(本業+財務活動などを含めた利益)が前期の199億円から90億円へと、約55%も減りました。「業績が急激に悪化した?」と心配になるかもしれませんが、実は本業の問題ではありません。
前期(2024年6月期)には、当時「関連会社」だった岩崎通信機株式会社の利益のうちあいHD分(約94億円)を「持分法による投資利益」として計上していました。「持分法(じぶんほう)」とは、出資比率に応じて関連会社の利益を自社の利益に取り込む会計のルールです。
今期、岩崎通信機は完全子会社(100%グループ会社)になったため、持分法の適用がなくなりました。前期に94億円あった営業外収益が今期はわずか4億円に激減したのが、経常利益大幅減の主因です。本業の実力を示す営業利益は99億円→89億円の約10%減にとどまっており、急激な業績悪化とは言えません。
注目ポイント②|当期純利益が増えたのは「負ののれん」のおかげ
当期純利益(最終的な利益)は157億円から213億円へ約36%増えました。これは「負ののれん発生益(ふのののれんはっせいえき)」という特別利益が大きく貢献しています。
「のれん」とは、会社を買収するとき、その会社の実質的な価値(純資産)より高い金額を払った際の差額のことです。逆に、実質価値より安く買えた場合を「負ののれん」と言い、その差額は利益として計上されます。あいHDは岩崎通信機(約143億円)とナカヨ(約37億円)を合計約180億円の負ののれんとして計上しました。
ただし、これは一時的な利益です。来期以降は繰り返されないため、来期の純利益予想は103億円と大幅に減少する見込みです(-51.6%)。数字の変動を正確に理解するには、こうした一時要因を切り分けることが大切です。
注目ポイント③|情報機器は低迷、でも他セグメントは堅調
情報機器セグメント(グラフテック:プロッタ・スキャナ等)は売上高が前期比16.9%減り、営業利益は67.6%も落ち込みました。北米の個人向け市場で消費の冷え込みが続いているのが原因です。
一方で他のセグメントはおおむね堅調でした。セキュリティ機器は金融機関や工場からの大型案件を取り込み売上6.9%増。カード機器はキャッシュカード即時発行機の大口受注があり安定した成長が続いています。計測機器と情報通信は岩崎通信機・ナカヨの新規連結効果で売上が大幅増となりました。
来期(2026年6月期)の見通し
来期は売上高900億円(+36%)、営業利益107億円(+20.4%)、経常利益114億円(+26.6%)を会社は見込んでいます。岩崎通信機とナカヨのビジネスホン事業の統合を早期に進め、グループシナジー(相乗効果)を実現することが最重点課題です。また、脱炭素事業「株式会社アイグリーズ」の成長加速にも力を入れる方針です。
配当(株主への利益の還元)は年間110円(当期比+10円増配)を予定しており、株主還元にも前向きな姿勢を示しています。
まとめ
あいHDの2025年6月期は、岩崎通信機とナカヨの子会社化という大型グループ再編が数字に大きく影響した決算でした。経常利益の大幅減は「持分法益の消滅」、純利益の急増は「負ののれん発生益」という一時要因によるもので、本業の実力(営業利益)の変動は約10%減と比較的落ち着いています。来期はM&Aで拡大したグループの統合効果をどれだけ発揮できるかが、真の実力を測る重要な局面となります。
本記事は情報提供を目的としており、投資の勧誘を行うものではありません。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。

